ピアニストのエリカは何故母親にキスをしたのか?
ネタバレがあるので注意して下さい。
ずっとこの映画で疑問だったシーン。ピアニストのエリカが、男に振られた後に母親に無理やりキスをするシーンがあります。
母親にキスを、しかも手首を抑えてまでしてるので、ここはエリカの心情がすごく表れているのだと思います。私なりの考えはこうです。
キスをする前、いつものように母親に小言を言われていました。突き放すかのような言葉にも、エリカは何も言いません。
エリカは普段から自分の感情を我慢するタイプでした。唯一その感情の束縛を解放する方法は、異常な性的行為です。最終的なエリカの本当の望みは長い手紙に記されている通り、自分を拘束し、そして痛みを与え、命令してくれ、という内容でした。そうする事で自分を解放してくれ、とでも言うように。
しかしそれを拒絶されてしまいます。この時エリカの心情は、悲しさや苦しさ、今まで自分が我慢してきた気持ちが一気に爆発している状態だったはずです。
そしてあのシーンで、母親にキスをしたのです。そういう方法でしか、自分の感情を解放する術を知らないというか、愛してる自分を受け入れてという風に見えます。エリカにとっては、最大級の甘えが爆発したのではないでしょうか。
ここは同時にはじめてエリカが感情をあらわに泣き出すシーンでもあります。泣き出した後も、エリカはずっと母親の手首を掴んでいます。縛る事、支配する事で愛してると表現できないのは、エリカを今まで縛ってきた母親と酷似しています。
精神的にも肉体的にも閉鎖的状況の中で、解放する相手が、そこに母親しか居なかったのかもしれません。一番執着している相手はエリカにとっては母親なのですから。
自らの狂気を悟り、最後の一瞬正気にしがみつく――。
最後のエリカはまさしくそれでしたね。